
抜歯即日インプラントで治療期間を短縮
歯を失うことは、見た目だけでなく、食事や発音、さらには全身の健康にも影響を及ぼすことがあります。そのような場合に、噛む機能や口元の調和を回復させる方法として注目されているのが、インプラント治療です。歯を失った部分の顎の骨にチタン製の人工歯根(インプラント)を埋め込み、その上に人工の歯を装着することで、しっかり噛める状態を取り戻します。
歯を失った方や、抜歯が必要と診断された方の中には、「抜歯後はしばらく歯がない状態で過ごすことになるのでは」「治療に多くの通院や時間が必要なのでは」といった不安を抱かれる方もいらっしゃいます。そうしたお悩みに対する選択肢の一つとして、近年注目されているのが「抜歯即時埋入法」です。
従来型治療のステップ
従来のインプラント治療は、安全性の高さと幅広い症例への適応性が大きな特長であり、基本的な治療法として確立されています。
治療は、以下のステップを踏んで進めていきます。
1.抜歯(必要な場合)
まず、治療対象となる歯を抜きます。
2.治癒期間
抜歯後、顎の骨や歯茎が完全に治癒するまで、通常は数週間から数ヵ月間の期間を設けます。この待機期間は、インプラントを埋入する骨の土台を感染のない安定した状態にするために非常に重要です。
3.インプラント埋入
骨の状態が安定したことを確認した後、手術によってインプラント体(人工歯根)を顎の骨に埋め込みます。
4.結合期間
埋入したインプラントと顎の骨がしっかりと結合するまで、さらに数ヵ月の期間を要します。インプラントと骨の結合(オッセオインテグレーション)により、インプラントは天然歯と同じような機能を発揮できる、安定した土台を得ることができます。
5.人工歯装着
骨結合が確認された後、最終的な被せ物(人工歯)を装着し、治療完了となります。
この方法では、治療期間が半年から1年程度と長くなるというデメリットがある一方で、ステップごとに確実な治癒を待つため、治療の成功率が非常に高い点が大きなメリットです。
即日インプラントを可能にする抜歯即時埋入法
当院でも導入している抜歯即時埋入法による「即日インプラント」とは抜歯とインプラント埋入を同日に行うことで、治療期間を大幅に短縮することができる治療法です。症例によっては、埋入したその日に仮歯まで装着できるため、患者様の身体的・精神的な負担を大きく軽減します。
即日インプラントのメリット
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治療期間の短縮
抜歯後の治癒期間(数ヵ月)が不要になるため、治療にかかる全体の期間が大幅に短縮されます。 -
早期の見た目の回復
抜歯当日に仮歯を入れられるケースでは歯がない期間がないため、見た目の変化による不安も少なく、普段の生活への影響を最小限に抑えられます。 -
骨吸収の抑制
抜歯窩(歯を抜いた穴)にすぐにインプラントを埋入することで、抜歯後に起こりがちな顎の骨の吸収(痩せ)を防ぎやすくなります。 -
手術回数の減少
抜歯と埋入が一度の手術で済むため、患者様の手術回数や負担が少なくなります。
従来型治療と即日インプラントの違い
| 項目 | 従来型インプラント治療 | 即日インプラント(抜歯即時埋入法) |
|---|---|---|
| 抜歯から埋入まで | 数週間~数ヵ月間の待機期間を要する | 抜歯当日にインプラントを埋入可能 |
| 仮歯の装着 | 骨結合後(数ヵ月後)に最終歯を装着 | 当日~数日以内に仮歯装着が可能な場合がある |
| 全治療期間 | 半年~1年程度 | 数ヵ月程度に短縮可能(症例による) |
| 適応症 | 幅広い症例に対応可能 | 骨の状態や炎症の有無により制限あり |
| 要求される技術 | 標準的なインプラント治療技術 | 非常に高度で専門的な診断・外科技術が必要 |
安全に行うための条件と注意点
即日インプラントは多くのメリットを持つ治療法ですが、歯科医師の高度な技術を要します。また、すべての患者様が行える治療法ではないため、以下のような条件をクリアしていることが必須です。
1.十分な周囲骨の残存
抜歯する歯の周囲、特にインプラントを支える顎の骨が十分に残っていること。
2.炎症・感染の不在
抜歯部位や周囲に大きな炎症や感染がないこと。感染がある場合、インプラントの失敗リスクが極めて高くなります。
3.良好な全身状態
糖尿病や骨粗鬆症など、インプラントの治癒に影響を及ぼす全身疾患が管理されていること。また、喫煙習慣がある場合は、インプラントの成功率が著しく低下するため、治療前に禁煙が強く推奨されます。
これらの条件を正確に見極めて治療を行うためには、十分な経験と知識を持つ歯科医師による対応が重要です。知識や経験を伴わないまま即日埋入を行うと、治療の経過に影響を及ぼす可能性や、感染症・インプラント周囲炎などの合併症リスクが高まるおそれがあるため、術前には精密な診断・治療計画が求められます。
専門医とインプラント専任衛生士によるチーム医療
1. 専門医による確かな診断と高度な技術
日本口腔外科学会認定医である担当医がインプラント治療を担当します。豊富な臨床経験を持ち、これまでの知見と技術に基づいた治療を提供しています。インプラント治療において、難易度の高い外科手術を適切に行うには、顎骨の解剖学的構造を熟知し、CTスキャンなどの精密検査データから、神経や血管を避けた埋入位置・角度を瞬時に判断する能力が必要です。この高度なスキルと判断力を駆使し、即日インプラントの可否を厳密に診断いたします。
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抜歯即時埋入法が可能なケース
骨の状態や炎症の有無を精密に確認したうえで、十分な治療の確実性が見込める場合に限り、仮歯の装着まで含めた治療計画をご提案します。 -
リスクを最小限に抑える場合
即日埋入がリスクを伴うと判断された際には、無理に進めず、骨の増生処置(骨造成)や治癒期間を設ける従来の治療法を、患者様とご相談のうえで選択し、長期的な安定を重視いたします。
2. インプラント専任歯科衛生士のサポート
治療の成功は、手術だけでは決まりません。むしろ、治療後の長期的なメンテナンスこそが、インプラントの寿命を左右する鍵となります。当院には、インプラント治療に特化した知識と技術を持つインプラント専任歯科衛生士が在籍しています。
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適切なブラッシング指導
インプラント周囲は天然歯とは異なり、専用のケアが必要です。専任衛生士が、インプラントの状態に合わせた個別のブラッシング指導や、清掃補助器具の使い方を丁寧にレクチャーします。 -
メンテナンス
インプラント周囲の歯肉の健康状態を定期的にチェックし、Perio Mateを用いた徹底的なクリーニングを実施します。これにより、インプラント周囲炎から患者様のお口の健康を守ります。
専門医による高度な外科治療と、専任歯科衛生士による徹底したサポート体制が連携することで、手術から予後まで一貫したケアを提供しています。
まとめ
抜歯即時埋入法による即日インプラントは、治療期間の短縮や見た目・機能の早期回復といった多くの利点を持つ一方で、すべての症例に適応できるわけではなく、十分な技術と精密な診断が必要です。当院では、長期的な安定性と全身の健康維持を見据えたうえで、患者様の負担をできる限り抑えられる治療方法をご提案しています。