朝起きると顎に痛みを感じたり、歯ぎしりや食いしばりで歯や筋肉が疲れてしまっていることはありませんか?就寝時のマウスピースを試してみても、どうしても寝心地が気になるという方もいらっしゃいます。こうしたお悩みに対して、近年注目を集めているのが「ボトックス注射」を使用した顎の治療です。施術は比較的短時間で完了し、普段どおりの生活に戻りやすいため忙しい方でも取り入れやすい治療法です。
顎の痛みや歯ぎしりでお困りの方へ
歯ぎしりがある場合、毎晩のように数時間以上、非常に強い力で歯をこすりあわせており、その際歯にかかる負荷は自分の体重の2〜5倍にも達します。食事で噛む力はせいぜい10kg程度ですが、歯ぎしり・食いしばり時はその何倍もの力が持続的に歯にかかっていることになります。顎関節症や筋肉の過度な緊張が原因で起こる症状には、次のようなものがあります。
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顎関節の痛みや開口障害
口を開け閉めする際にカクカク・ゴリッと音がしたり、口を大きく開けにくく、噛むと痛みを感じることがあります。症状が進むと、食事が十分にできなくなる場合もあります。 -
歯ぎしり・食いしばりによる歯や詰め物の損傷
歯の表面がすり減ったり欠けたりして知覚過敏が起こるほか、詰め物や被せ物が外れやすくなります。 -
顎関節症の発症・歯周病の進行
歯ぎしりは顎関節症を引き起こすリスクがあります。顎関節症になると、口の開閉や歯磨き、咀嚼時に痛みが生じることがあり、その結果プラークがたまりやすくなり、歯周病が進行しやすくなります。 -
エラ張りや顔の輪郭の違和感
咬筋が発達すると顔の輪郭が際立ち、エラが張った印象が強くなります。 -
咬筋の過緊張による頭痛・肩こりの悪化
顎の筋肉の緊張が続くと、頭や肩にも影響が及び、頭痛や肩こりを引き起こすことがあります。
これらを放置すると顎関節への負担が増え、症状が悪化することがあります。特に近年は歯ぎしりによる二次障害として顎関節症の増加が指摘されています。また、ひどい歯ぎしりは睡眠時無呼吸症候群を起こしている可能性もあります。従来はマウスピース(ナイトガード)が主な治療法でした。マウスピースは、歯のすり減りを防止し、力を歯列全体に分散させて歯の欠けや摩耗を防ぐ効果があり、顎関節のリラックスにもつながります。また、マウスピース療法のメリットは歯を削らずに済み、健康保険が適用になることですが装着感が合わず続けられない方や、マウスピースの装着だけでは根本的な解決には至らないケースもあります。
ボトックス注射とは?仕組みと効果
上述のような症状が見られる方にボトックス注射は有効な選択肢の一つとなります。発達した顎の筋肉に少量の薬剤(ボツリヌストキシン)を注入し、筋肉の過緊張を和らげることで歯ぎしり・食いしばり・顎の痛みを緩和します。
具体的な作用
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筋肉の緊張を緩める
過剰な咬筋の動きを抑制し、顎関節や歯への負担を軽減します。 -
歯ぎしり・食いしばりの緩和
無意識の強い噛み締めを抑え、歯や詰め物の破損を防ぎます。 -
顎関節症の症状改善
筋肉の緊張を和らげることで、痛みや口の開きにくさを軽減します。 -
小顔効果も期待
咬筋の張りが緩むことで、エラの輪郭がすっきりし、フェイスラインの印象も変わる場合があります。
ボトックス注射の効果は、治療後数週間ほどで徐々に感じられ、約1か月で最も高く現れます。持続期間は一般的に3~6か月程度ですが、症状や筋肉の状態によって個人差があります。定期的に施術を受けることで咬筋の過度な働きを抑えやすくなります。顎関節への負担軽減や歯の摩耗予防にもつながるため、継続的な治療はさらなる改善が期待できます。
治療における注意点・副作用
比較的副作用や合併症のリスクが低いとされている治療法ですが、事前にリスクについて十分理解することが重要です。
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内出血・赤み・腫れ
注射部位に腫れや痛み、内出血が生じることがあります。通常は2〜3日で改善しますが、場合によっては症状の改善に1週間ほどかかることもあります。 -
筋力低下や違和感
注射後は筋肉の緊張が和らぐことで、顎にだるさや力の入りにくさを感じることがあります。また、硬いものや弾力のある食べ物が噛みにくくなる場合もあります。特に治療後1か月ほどは違和感を感じやすいですが、徐々に慣れていきます。 -
表情の変化
まれに口角が上がりにくくなるなど、表情に一時的な違和感が現れることがあります。 -
頬の凹み・肌のたるみ
咬筋の収縮が緩むことで頬骨が目立ったり、頬が凹んで見える場合があります。皮膚が薄い方や年配の方は、皮膚の余りによってたるみが生じることもあります。 -
感染やアレルギー反応
注射部位の感染や、ボトックスに対するアレルギー反応が出る可能性もあります。 -
効果は永続的ではない
効果は3〜6か月程度で、症状を維持するには定期的な施術が必要です。治療を中断すると、咬筋の動きが戻り、歯ぎしりや食いしばりが再発する場合があります。
ボトックス治療が受けられない方
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妊娠中・授乳中の方
ボトックスは胎児や乳児に影響を与える可能性があるため、推奨されていません。 -
ボトックスやその成分に対してアレルギーがある方
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神経筋疾患、心疾患、肝疾患、腎疾患、閉塞隅角緑内障を患っている方
ボトックスは筋肉や神経に影響を与えることから、筋肉障害や神経障害を持つ方は治療が受けられません。 -
筋弛緩薬等の薬剤やサプリメントを服用している方
特に抗凝固薬を服用している方は、医師と相談し、適切な判断をしてもらうことが重要です。 -
注射部位に感染症や皮膚の炎症がある方
感染や炎症が落ち着いた後に施術可能になることもあります。
まとめ
ボトックス注射は、顎の痛みや歯ぎしり・食いしばりなど、咬筋の過緊張が原因で生じる幅広い症状に効果的な治療法です。特に顎関節症による痛みや口の開きにくさの緩和にも有効で、マウスピースを使用すると睡眠が妨げられてしまう方や、日中の無意識な歯ぎしり・食いしばりを改善したい方にも適しています。また、エラ張りや咬筋の張りによるフェイスラインの悩みがある方にも選ばれています。早めに相談することで症状の改善につながるだけでなく、顔の印象にも影響を与えます。気になる症状がある方は、ぜひ一度当院へご相談ください。