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神経を抜く前に知ってほしい「歯髄温存療法」という選択肢 Blog

歯科医 永田 さやか (ながた さやか)
スカイ&ガーデン デンタルオフィス 院長


虫歯や外傷で歯の奥の組織が傷ついたとき、従来は神経つまり、“歯髄”を抜く処置がほとんどでした。確かに根管治療(歯の神経を除去して内部を清掃・封鎖する処置)は有効ですが、その後は歯がもろくなり、虫歯の再発や破損リスクが高まるため、寿命が短くなるおそれもあります。そこで、今回の記事では近年注目されている「歯髄温存療法」について詳しくご紹介します。

歯髄の重要な役割

歯髄(しずい)は、歯の中心部に存在する柔らかい組織で、いわゆる「歯の神経」として知られています。多くの方は、歯髄を「痛みを感じる場所」として捉えがちですが、実はそれ以上に歯そのものの健康を支える、極めて大切な組織としての役割を担っています。

1. 歯に栄養と酸素を届ける「血管のネットワーク」

歯髄には多くの微細な血管が通っており、歯の内部に酸素や栄養を供給しています。これによって内部構造が健全に保たれ、細胞の修復や再生が促進されるため、歯は健康な状態を維持しやすくなります。歯髄が正常に機能している限り、歯は「生きた組織」として保たれるのです。

2. 痛みや温度を感知する「センサー」

歯髄には神経が集中しており、虫歯による刺激や外からの温度変化を素早く察知する役割があります。こうした感覚機能は、歯に何か異常が起きた際にすぐ気付く「警報装置」のような働きをしており、早期発見・早期治療につながります。

3. 免疫機能を担う「防御システム」

歯髄には免疫細胞も存在し、細菌が侵入すると局所的な炎症反応を起こして防御します。これは体が歯を守るための自然な反応であり、初期段階であれば自己修復できるケースもあります。

4. 歯根の形成と発育を支える

成長期において、歯髄は歯根の形成と発育を促す中心的な役割を果たします。特に子どもや若年層では、歯髄が健康であることで歯根がしっかりと成長し、歯全体の安定性が保たれます。反対に、歯髄を失った歯は、時間の経過とともに脆くなりやすくなります。

歯髄温存療法とは?

歯髄温存療法では、完全な抜髄(神経を取る処置)を避けて、歯髄の一部または全部をできるだけ保存します。従来であれば神経を抜く処置が選択された症例でも、この方法ではダメージを受けた部分のみを処置します。そのため、健全な歯髄を可能な限り残すことができるので、歯本来の構造と機能を守る、より低侵襲な治療と考えられています。

歯髄温存療法の種類と特徴

歯髄温存療法には、歯髄の損傷の程度や症状に応じて、いくつかのアプローチがあります。

① 間接覆髄法(Indirect Pulp Capping)

虫歯が歯髄のすぐ近くまで進行しているものの、まだ歯髄に達していないケースで行われます。虫歯の取り残しを最小限に抑えつつ、特殊な薬剤で封鎖することで歯髄への刺激を避け、再石灰化(歯の自然治癒)を促します。
【特徴】
・歯髄を露出させずに保存できる
・治療後の疼痛が少なく、成功率も比較的高い

② 直接覆髄法(Direct Pulp Capping)

虫歯の除去中にわずかに歯髄が露出してしまった場合、露出部分を消毒・止血し、歯髄保護材(カルシウム水酸化物やバイオセラミック系材料)を直接塗布して密閉する方法です。
【特徴】
・歯髄の自然治癒力に働きかけ、組織再生を促す
・無菌的な環境と止血のコントロールが必要不可欠

③ 部分的断髄法(Partial Pulpotomy)

歯髄の一部に炎症がある場合、その部分のみを除去し、健康な歯髄を温存します。とくに若年者や外傷歯において有効で、歯根の成長が続いている歯に適しています。
【特徴】
・成長中の歯において歯根の発育を助ける
・失活歯にしないため、歯の寿命が延びやすい

歯髄温存療法の注意点

・適応症が限られる:
歯髄の炎症が重度であったり、感染が進んでいる場合は適しません。

・成功率に個人差がある:
患者様の年齢、免疫力、治療時期などによって、予後が左右されることがあります。

・術中の無菌管理が必須:
唾液や細菌が歯髄に侵入しないよう、ラバーダムなどによる厳密な感染管理が必要です。

まとめ:大切な神経を残せるという選択肢も知ってください

この方法は、すべての症例で適用できるわけではありません。しかし、適切な診断と治療がなされれば、これまでであれば抜髄しなければならなかったケースでも歯髄を残せる可能性があります。「歯の神経を抜く」と聞くと、仕方のないことと受け入れてしまいがちですが、その前に歯髄温存療法という選択肢があることをぜひ知っていただきたいと思います。
当院ではできるだけ「歯を削らない」「神経を抜かない」治療を基本とし、歯髄温存療法の一環として、MTAセメント(Mineral Trioxide Aggregate)を使用しています。MTAセメントは生体親和性が高く、歯髄との密着性が優れているため、歯髄の保護や再生を促進します。具体的な方法については公式サイトや過去掲載記事「MTAセメントで神経を残す。」をご覧ください。

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