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睡眠中の悪い歯ぎしり。あなた自身の歯を壊してしまうかもしれません。 Blog

歯科医 永田 さやか (ながた さやか)
スカイ&ガーデン デンタルオフィス 院長

ブラキシズムという言葉をご存知ですか?ブラキシズム(Bruxism)とは歯ぎしりの事で、歯科で使われる専門用語の一つです。

通常食事中や会話中、ものを飲み込む時などに上下の歯は接触するのですが、それ以外の接触する必要性がない時、つまり「機能していない時に上下の歯が接触を生じている状態」をブラキシズムといいます。

ブラキシズムには大きく分けて、次の3タイプに分類されます。

  • ①「グライディング」タイプ…ギリギリと上下の歯をこすり合わせる歯ぎしり
  • ②「タッピング」タイプ…カチカチと上下の歯を連続的にかみ合わせる歯ぎしり
  • ③「クレンチング」タイプ…ただ歯を強くかみしめる歯ぎしり。

「歯ぎしり」と聞くと多くの方がイメージされるのは「グライディング」のタイプでしょう。ギリギリ、ミシミシ、ガリガリという嫌な音がして、いかにも歯がこすれている音がします。

ところが実際には「タッピング」や「クレンチング」のようなタイプの歯ぎしりもあり、音がしない歯ぎしりもあることはあまり知られていません。

またブラキシズムは寝ている時に起こる場合と、目覚めている時に起こる場合とにより、睡眠時ブラキシズムと覚醒時ブラキシズムとに分けられます。

●睡眠時ブラキシズムとは

睡眠中のブラキシズムは睡眠関連疾患の一つとして「睡眠関連運動異常症」に分類されます。自覚することは少なく、周囲の人に知らされて初めて気づくことがほとんどです。

●睡眠時ブラキシズムの原因

一昔前までは咬み合わせの異常が睡眠時ブラキシズムの原因とされていましたが、現在では否定されています。昨今の研究では睡眠時ブラキシズムが、睡眠中の大脳上位中枢の興奮に由来するもので、中枢性に引き起こされることが明らかになってきています。

影響を与えるものとしてストレス、性格、遺伝、服薬、飲酒、喫煙、睡眠呼吸障害などがあります。眠りの浅さも歯ぎしりの一因であることが解明され、睡眠時ブラキシズムの大半が浅いノンレム睡眠時に発生することが分かっています。

●睡眠時ブラキシズムがお口の周囲組織に与える影響

歯をかみ合わせるときに生じる力を咬合力(こうごうりょく)といいますが、食事のときに生じる咬合力は約30kgほど。

これだけでも大きな力ですが、睡眠中の歯ぎしりで生じる咬合力は50~100kgを超えます。お肉をかみ切るときにかかる力より、歯ぎしりで生じる力の方がずっと大きいのです。

このような強い力がかかる歯ぎしりは口腔外のトラブルを招きます。

歯ぎしりをするのに使われる筋肉は、頬骨付近から下アゴにかけて広がる咬筋や、側頭部に位置する側頭筋。これらの筋肉に強い負荷がかかり、頬やアゴの痛みや頭痛が生じます。咬筋や側頭筋は首や肩の筋肉ともつながっていることから、肩こりや首こりが起こる原因にもなります。顎関節では強度の筋活動により関節内の内圧が高まって関節痛を起こしたり、筋痛が起こったりします(=顎関節症)。

●歯ぎしりによって引き起こされる、口腔内環境の悪化

虫歯を治療して、歯に詰め物が入っている人は珍しくありませんが、歯ぎしりにより強い圧力がかかると、歯と詰め物のあいだにすき間ができるようになります。

このすき間に食べ物のカスやプラークが入り込み、せっかく治療した歯が二次虫歯になる環境を作り出してしまうのです。

歯ぎしりの圧力は詰め物だけでなく、歯そのものにも影響を及ぼします。過度な力がかかり続けることで歯の表面を覆っているエナメル質がすり減ったり、歯にヒビが入ったりします。進行すると虫歯のない健康な歯が欠けたり、真っ二つに割れてしまうこともあります。エナメル質がすり減れば象牙質(歯の主体となる硬組織)が表面に露出してしまい、知覚過敏が起こります。

●悪い歯ぎしりをしていませんか?歯ぎしりサインをセルフチェック!!

  • 【1】歯がしみる
  • 【2】歯の詰め物、かぶせ物がよく外れる
  • 【3】歯が欠けた、割れた、すり減った
  • 【4】歯の根元にくさび状の凹みが見られる
  • 【5】頬の内側や舌の側面に歯の跡が付いている
  • 【6】起床時にアゴが痛い、疲れている
  • 【7】上アゴの真ん中や下アゴの歯の内側に骨が出っ張っている(骨隆起)
  • 【8】食いしばりで目が覚めることがある

当てはまる項目があれば、悪い歯ぎしりをしている可能性があります。

●歯ぎしりのよい効果⁉

ところで一見ネガティブな現象のように思える歯ぎしりですが、近年ポジティブな面としてストレス解消の効果が認められることが分かってきました。緊張状態にあるときに優位に働くのが交感神経ですが、無意識下の歯ぎしりには交感神経を抑制する効果があるのです。

その他にも歯ぎしりをする口の動きによって唾液が分泌され、その唾液が胃酸を中和することで「逆流性食道炎」の炎症を防止する効果がある事が分かってきています

●睡眠時ブラキシズムの治療法

睡眠時ブラキシズムは他因子性疾患であるため、確実に抑制できる治療法はありません。関与因子に応じてストレスマネージメントや、飲酒・喫煙に対する指導、服薬の変更や中止などを行います。

一般的な対症療法としてはスプリント療法(スタビリゼーションスプリントというマウスピースを就寝中に使用する)があります。スプリントは短期的にブラキシズムを抑制することができ、歯や歯冠修復物(詰め物、かぶせ物など)を保護することも可能です。顎関節への負荷を軽減することもできます。

心身に様々な影響を与える就寝中の歯ぎしり。ところが歯ぎしりは就寝中だけに起こるわけではありません。日中、あなたが気づかない時にも無意識に歯ぎしりしているかもしれません。次回は覚醒時ブラキシズムについてお話しします。

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